技術者倫理の基礎知識 9 〜PL法(製造物責任法)について学ぶ〜

前回、日本における倫理関連の法整備のあらましについて解説しました。

倫理だけではいつまでも改善しない問題に対し、罰則付き法制化が進んでいます。

大きく2つ、消費者の権利を守るための「PL法」と企業の不祥事をなくすための「法益通報者保護法」があります。

今回は、PL法について少し深掘りしたいと思います。

前回述べたような背景を経て、1995(平成7)年に「PL法」が施行されました。

PL法の法制化により、消費者保護の潮流が浸透し、

欠陥品を社会に流出させた企業は

莫大な霜害賠償を負わなければならなくなりました。

この段階で、「品質管理」は一定品質の製品を大量生産するための手法から、

企業が製品の欠陥を防止し、多額の損害賠償の責任を負わなくてもすむようにする対策

という性格を持つようになりました。

PL法と民法

「PL法」制定によって、欠陥商品によって損害を受けた消費者は、

損害が製品の欠陥によるものであることを立証するだけで良くなりました。

この「PL法」が制定されるまでは、

製造者に有利な状況が続いていました。

それまで、欠陥品による損害は

1898(明治31)年に施行した民法第709条(不法行為法)によって、

損害と加害者の故意または過失との因果関係を被害者が立証する必要がありました。

しかし、製造物に精通していない素人の一般被害者が

製造業者の設計ミスや製造ミスによる過失があったことを証明することは

容易ではありません。

弱者である消費者保護の観点から、

被害者による証明が不要で、故意や過失があろうがなかろうが、

製品の欠陥により使用者に損害を与えれば、

「PL法」により製造業者は厳格に責任を負うことになりました。

なお、欠陥には3種類定義され、

①設計上の欠陥、

②製造上の欠陥、

③指示・警告上の欠陥

があります。

少し補足すると、指示・警告上の欠陥とは、

製造物を使用または消費する際に発生する可能性がある危険について、

それを予防・回避するための指示や警告が不十分なことを言います。

最近商品を買うと取扱説明書の先頭に表示される「!」三角マークです。

PL法制定の意義についてまとめると

PL法の意義についてまとめました。

社会的大問題となった「ヒ素ミルク事件」などの時代に比べると

「公衆優先」「消費者保護」が法によって守られる時代になってきたことが実感できます。

PL法の免責事項

P L法は、消費者保護を強く意識した法律で、

製造者にとっては非常に厳しい法律になりましたが、

オールマイティに消費者保護するだけでなく

社会的影響を考慮して免責事項があります。

免責事項について次の2つの事項が明確に謳われています。

①経済成長の原動力である新製品開発意欲を削がない

製造物をその製造業者等が引き渡した時における

科学・技術の知見によっては、

欠陥があることを認識できなかった場合は免責されます。

②下請けの原材料部品製造者の保護

原則として、製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合、

「製品製造業者」も「部品の製業者」も本法にいう製造業者として製造物責任を負うことになります。

ただし、「製品製造業者」と「部品の製業者」が元請け下請けの関係にあり、

「部品の製業者」が「製品製造業者」が行った設計に関する指示に従ったことにより欠陥が生じ、

かつその欠陥が生じたことについて過失がない場合は免責されます。

PL法から技術者倫理への流れ

消費者は、この「PL法」によって多額の損害賠償を得ても、

失われた健康や生命は戻りません。

消費者にとっても製造者にとっても、

損害を発生する事故を起こさせないよう

欠陥品の社会への流出を防ぐ意識や体制を作ることが大切でした。

科学技術の知識に情報の非対称性がある技術者と公衆の間で

その影響を受ける公衆(一般市民)に

「技術者倫理」の基本である「公衆優先」の考え方が認識されるようになったことに

PL法の法制化の意義があります。

おおやなぎ経営研究所の最新情報をお届けします