技術者倫理の基礎知識 5 〜倫理観のない技術者が増えるとどうなるか〜

前回のブログでは、専門職(プロフェッショナル)の技術者が技術者倫理を

身に付けなければならない理由について解説しました。

今回は、倫理観のない技術者が増えるとどうなるかについて、

市場原理を例に考えていきます。

倫理観のない技術者は淘汰されるか?市場原理で考える

自由主義社会の日本において、倫理観のない技術者は淘汰されるか?

経済の市場原理で考えてみます。

市場原理とは、公平な競争環境において

市場に全てを委ねることで

参加者(生産者と消費者)は知らず知らずに合理的な行動をするようになり

経済上の諸問題を解決できるとする考え方です。

技術者と公衆の間でも、公平な競争環境があれば、

倫理観のない技術者は自然に淘汰されるという考え方です。

しかし、実態は違います。

技術者と公衆の間には公平な競争環境がありません。

どういうことかと言うと、

先ほど示したように、倫理には階層があります。

階層は上位になる程人数が少なくなり、

そして上位になる程、その立場の人は「力」をもち下の階層に対する影響が大きくなる。

最上位層は知識、スキル、問題解決能力の高い専門職である技術者の階層です。

科学を専門とする技術者は科学技術を行使することで、

その結果は良くも悪くも公衆に多大な影響を与える存在です。

専門家である技術者はその専門分野において、

公衆より多くの知識と情報をもっています。

これは「情報の非対称性」と言われる状態であり、

経営学では、この状態下では公平な競争はなくなり、

情報をたくさん持つもの(技術者)が優位となる現象です。

そうなると、公衆にとって専門家の不正はなかなか見抜けなくなります。

それだけに、技術者は技術者倫理をしっかり身につけ、

自らを律することが極めて基本的かつ重要な素養になります。

例えば、技術者が技術者倫理に反する行動をした場合は、

不祥事となり公衆への多大な悪影響を及ぼします。

すると専門家全体の信頼が落ちることになり、

技術者の活躍する市場がなくなり、

科学技術そのものの信用に関わる問題になります。

経営学で言う「レモンの原理(悪貨が良貨を駆逐する)」が働きます。

人間の幸福追求のために、科学技術の発展は必須であります。

次は、どうしたら科学技術への信頼を保つことができるか考えていきます。

科学技術への信頼を高める方法

科学技術への信頼を高めるには?

技術者のブランドを高めることが有効です。

そこで登場するのが、医師や、技術士、建築士と言った

国家(品質を保証する第三者機関)が公認する資格です。

資格を持つ専門家は「法」でその立場が守られていて権限が与えられ、

その資格者でなければ行ってはいけない行為があります。

公衆は技術者の外見や料金の高さではなく、

第三者機関が認める資格の有無によって技術者の信頼性を判断できます。

資格所有者は国家公認のブランドが与えられるとともに、

技術者としての判断や行為に対してその成果に対する品質を保証する責任が生じます。

ここでもやはり資格者がブランドを保つためには、

厳しく自らを律する「技術者倫理」が必要になってきます。

次回のテーマは、「コンプライアンスと企業倫理」です。

現在、多くの技術者は企業内で活躍しています。

組織人としての企業倫理と

技術者個人としての技術者倫理のジレンマについて

考えていきます。

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