技術者倫理の基礎知識 8 〜倫理問題における法整備〜

これまで倫理の一般概念や技術者倫理・コンプライアンスについて解説してきました。

今回からは、実務問題として技術者倫理を考えて行きます。

企業の不祥事が続き、倫理問題に関する大きな事件が起こるたびに法整備がなされてきました。

法整備としては大きく2つの法律が制定され改定が進めれれてきました。

今回は、これら法整備の歴史と背景について解説します。

法と倫理

最初に、法と倫理についておさらいしましょう。

倫理とは自主的な集団内のルールと捉えることができます。

いい悪いの判断は各人の価値観によって違ってきます。

つまり、基準が曖昧です。

一方、法は強制的で実際的で、違反した場合は罰則もつきます。

そのため、明文化された判断基準が定められます。

そして、概念的に倫理は法を内包します。

倫理観に頼るだけでは、いつまで経っても改善しない倫理問題に対するため

罰則付きの強制された法律が制定されると言う順番になります。

具体的には、製造物の欠陥に対して消費者が守られないことからPL法が作られました

企業の倫理的不祥事がいつまで経っても無くならないことから公益通報者保護法が作られました。

日本は、第二次大戦の敗戦から復興し、高度経済成長期を経て、今日の繁栄を築いてきました。

今日の経済の発展を支えてきたのは「良いものを安く大量に生産する」製造業でした。

大量生産の持つ課題解決のため、

「品質管理」や「製造物責任法(以下、PL法)」および「技術者倫理」が、

この順番で米国から伝えられました。

まず、「品質管理」手法の導入により、一定品質の製品を大量生産することが可能になりました。

日本においては、外来の「品質管理」手法を発展させ、

総合的品質管理(T Q C)が創造され、

その進化形が品質マネジメントシステムISO9000シリーズです。

大量生産により同じ品質の製品が大量に消費者へ届くようになると、

製品の中には設計および製造方法に由来する欠陥品も大量に出荷されることがあります。

すると、大量の欠陥品が消費者へ届き、被害も広範囲に広がる状況が生まれます。

その結果として、消費者保護のための製造物責任法の整備へとつながっていきました。

製造物の欠陥に対する消費者保護活動

製造物責任法(P L法)制定の背景についてまとめると次のようになります。

発端は1950年代に次々と起こった製造物の欠陥を起因とする事故(森永ヒ素ミルク事件、カネミ油症事件など)に対する消費者保護運動の高まりでした。

また、このような食品や薬品の事件では、

被害者が製造業者に対し損害賠償請求を行うときは、民法の規定によることとなります。

しかし、その場合、被害者が製造業者側の「故意又は過失」を立証しなければならないと言う点が問題になりました。

専門家ではない被害者が、どのような工程で生産されていることや

どこに過失があったことなどを立証することは容易ではありません。

このように、法体系は消費者には不利な状況下にあり、その後も欠陥商品による事故が多発しました。

発端の事件から45年の年月を経て、製造物責任に関する社会的認識の変化を待ち、

ようやく1995年に被害者が損害賠償を得やすくする方向で、

製造業者の「過失」の有無を問わず、製品に「欠陥」があれば、

製造業者に損害賠償責任を負わせることにより、

被害者の立証責任の軽減を図ることを目的として、PL法が施行されることになりました。

倫理違反防止に有効な内部告発

近年の企業の不祥事は、この内部告発を発端に明らかになるケースが多くなってきました。

内部告発とは、組織内部の人間が、所属組織の不正やコンプライアンス違反を、

外部の監督機関やマスコミなどへ知らせて社会へ周知を図る行為です。

日本で「内部告発」というとその語感から犯罪に絡む暗いイメージがあるが、

アメリカでは内部告発者のことを「警告する人(ホイッスルブロワー)」などと呼び

積極的に行動する前向きな捉え方をしています。

この内部告発者を保護する制度もアメリカ発の制度です。

日本では過去の慣例からすると、内部告発をするということは、

組織からすれば裏切り行為と見なされることが普通でした。

したがって、告発者は必然的に組織や関連業界が好ましからざるものと認知されます。

これにより、公益のために組織の不正や悪事を公表した者が、

その組織や関連業界に報復人事などの不利益な扱いをされたり

制裁を加えられたり、業界から追放されてしまう事例が相次ぎました。

形式的にみると、内部告発は企業の内部情報の漏洩行為に当たるため、

企業秩序を侵害する行為として懲戒処分の対象となってしまいます。

しかし、組織の不正を明るみに出し正すためには、内部告発が非常に重要な働きをすることは明らかです。

すなわち、一定の場合には、内部告発の公益性が当該組織の個別の利益を上回ることがあるのです。

そんな状況の中、日本では、内部告発を行った労働者を保護することを目的とする

「公益通報者保護法」が2006年に施行されました。

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