技術者倫理の基礎知識 6 〜コンプライアンスと企業倫理〜

今回のテーマは「コンプライアンスと企業倫理」です。

今日の技術者は、単独で活動するよりは企業等の組織内で活動するケースが大半です。

そこで問題になるのが「技術者倫理と企業倫理のどちらを優先するか?」のジレンマです。

前回までは、技術者倫理について解説してきましたが、

今回は企業倫理について学び、その特徴を理解します。

企業の存在理由とは?

まず、社会が企業に求めること、言い換えれば「企業の存在理由」について考えてみましょう。

ピーター・ドラッカーは著書『経営の哲学』の中で

「企業は社会や経済の許しがあってのみ存在している。

有用かつ生産的な仕事をしているとみなされる限りにおいて

存在を許されているにすぎない」と述べています。

このことが企業の存在理由だと表現しています。

企業は社会に望ましい製品やサービスを提供し、

いろいろな社会の要求に応え、

これらに応えていくことで信頼性が高まり、

中長期的に発展し、継続的存在が可能になります。

企業の社会的責任と技術者の役割

企業の責任は社会に対して貢献することです。

社会貢献とは本業において社会的責任をきっちりと果たすことで、

社会が期待する製品やサービスを開発し、より安価に提供することです。

技術者はその重要な役割を担っており、技術者の夢と企業の目的は合致しているはずです。

したがって、企業における技術者の役割は、

本業で有効な、より安価な開発成果品やサービスを生み出し、社会に還元することです。

その際、「技術者倫理」に則った行動が求められます。

一般の人々(公衆)は企業に信頼できる技術者がいることを担保として、

その企業の製品やサービスを安心して購入しています。

コンプライアンスとは?

コンプライアンスとは日本語では「法令遵守」と訳されます。

一般的には、企業や組織が法令や倫理といった社会的な規範から逸脱することなく

適切に事業を遂行することを意味します。

企業活動における行動指針といった意味になります。

企業倫理とは?

企業倫理とは、企業活動における組織全体の倫理のことを指します。

広い意味では、組織メンバーの個人的な倫理や技術者倫理も含みます。

企業の行動は投資家だけでなく、広く消費者(公衆)に大きな影響を与えることで

「技術者倫理」と似たところがあります。

企業内で活躍する技術者は、技術者倫理だけでなく、

企業倫理、コンプライアンスについてもしっかり理解することが大切です。

企業倫理とは、狭義では企業における組織としての倫理であり

広義においては、組織を構成するメンバーの個人的倫理も含みます。

以前、技術者倫理の特徴で解説したように、

企業倫理も対人関係において、特定の従業員や投資家に向き合うだけでなく

不特定多数の公衆と向き合う点が一般的な倫理と違う点です。

したがって、企業においても技術者同様に高い倫理性が求められます。

企業倫理と技術者倫理 どちらを優先すべきか?

以前に学んだように、倫理には階層があります。

技術者が企業に所属すると、企業人の立場と技術者の立場の2つの立場があります。

そこで起きる倫理的な問題に対して、どちらの立場で問題を解決したらいか?ジレンマに陥ります。

その時取るべき答えは、上層の立場が優先する、技術者倫理は企業倫理に優先すると考えるべきです。

しかし、実際には技術者でありながら企業運営の舵も取る経営者を兼ねるよな場合、

経営者の立場をとるか?技術者の立場をとるか?

その立場の違いによって板挟みになることがあります。

少し前までは、企業は「社会的責任」より「利益」を優先する企業文化が多くを占めていました。

しかし、近年では目先の「利益」よりは、中長期的な企業価値向上を目指した

「CSR(企業の社会的責任)活動」を優先する経営戦略が注目されてきています。

社会を構成する企業として社会的責任を果たし、社会に存在を許された企業は信頼性が向上し同時に業績もアップするようになってきました。

つまり、利益重視の企業よりCSR重視の企業が生き残るという考え方です。

その場合は、企業倫理と技術者倫理は対立しません。

近年の企業不祥事を見ていると、企業倫理(利益優先経営)が技術者倫理を優先したところに起きていることがわかります。

近年では、日本の経済界を引っ張ってきた日産やトヨタでさえ、

技術者倫理をないがしろにする企業文化が残っており、不名誉な注目を集めています。

企業の存在理由を再確認して、技術者倫理優先の考えに立ち戻ることが大切です。

コンプライアンス、企業倫理、CSRは密接な関係にある

企業が社会に認められ、正しく成長するためにはどうしたらいいか?

3つのキーワード「コンプライアンス」「企業倫理」「企業の社会的責任(CSR)」について解説してきました。

この3つの概念は単独に存在するのではなく、それぞれが密接な関係にあります。

ずみまとめると次のようになります。

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