技術者倫理の基礎知識 7 〜倫理違反企業には社会的制裁が〜
前回はコンプライアンスと企業倫理について解説しました。今回は、倫理違反を犯した企業はどうなるかについて解説します。
企業に問われる倫理的責任
前回解説したように、近年の企業は利益に関わる企業業績と同等に倫理的責任が問われるようになってきました。
コンプライアンス・CSR活動重視の考えです。
当然のことながら、企業内の技術者が行動する際にも、技術者個人としての行動倫理にかなった行動が求められています。
そして、企業が次のような違反行為を犯した場合は、厳しく制裁を受けることになります。
①組織的違法行為
「企業倫理」で問題になる違反は、個人だけでなく違法行為を犯した人物が属している企業ぐるみの組織的な違法行為です。
違反した本人は法廷で裁かれますが、企業も消費者などによって制裁されます。
これを未然に防ぐためには、CSR重視経営・倫理要綱の整備といった対策が必要になります。
②注意義務違反行為
意図して違反行為を犯していなくても、過失によって問題が起こる場合があります。
過失は注意義務に反することで生じます。この種の違反を注意義務違反と呼びます。
商品やサービスを企業外に出す行為において、結果的に公衆の安全をおびやかすことになれば、
開発、製造、販売のプロセスでの問題が追及されます。
そして、それは賠償問題に発展することもあります。
企業活動における、これらの過失対策として、P L法(製造物責任法)が制定されました。
PL法については解説します。
③説明義務違反行為
説明責任(アカウンタビリティ)とは、
政府・企業・団体・政治家・官僚などの、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、
直接的関係者だけでなく、不特定多数の間接的関係者に
その活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要があるとする考え方です。
企業活動においては、商品を製造する企業に課せられる義務であり、
消費者サイドは知る権利を有し、企業はその権利に応じる必要があります。
したがって、説明責任を果たすのは当然のことです。
これに違反することを説明義務違反行為と言います。
このため、企業は商品にしっかりと表示し、説明書を添付します。
しかし、技術に関する説明責任の場合は、技術を理解するには専門的な知識が必要です。
そのために非専門家に対して、その知識を分り易く説明することが求められます。
近年、説明を果たす対象品が消費者に対する商品の説明責任だけでなく、
企業が所有する工場などの周辺住民に対して、工場廃棄物などの説明も対象になっております。
これらに対してはP L法で規制されるようになりました。
倫理要項はなぜ必要か?
企業の倫理的責任行為の一つである組織的違反行為を回避するためには、
倫理綱領の整備と公開が有効です。
組織が自主的に倫理的活動方針を箇条書きに示し、内外に発信する自主規制です。
現在、多くの専門職団体が専門職としての社会的責任・職業倫理を
行動規範として成文化したものとして倫理綱領を制定しています。
古くは日本技術士会の技術士倫理綱(1961年)ほか、
多くの科学技術学会が自主的に独自の綱領を制定しています。
これらの綱領は専門家としての倫理的責任を明確にし、社会に表明するものです。
つまり、専門家の行動規範であるとともに、
これを社会に表明することによって専門家の独善を防ぐ役割も果たすもとになります。
また、専門家としての地位を確立していく上で、
専門家独自の行動規範をもつことは必要条件の一つと考えられています。
近年では、企業も社会的責任企業が求められる中、
社員に企業の倫理的方針や法令遵守姿勢を自覚させるため綱領を制定するケースも増えています。
ネットで調べるだけでも「サントリー」「神戸製鋼」「リクルート」といった一流企業の倫理綱領を目にすることができます。
次回は、「頭でわかっているが、社会システムの不備がそうさせない」
そういった現状を変えるため、法制度面の整備(製造物責任法と公益通報者保護法)状況について解説します。