技術者倫理の基礎知識 3 〜技術者倫理とは?〜
前回、倫理には階層があり、その最上位にが専門家としての倫理であると説明しました、
ここでは、専門家の一つである技術者(=工学者)として、その職務遂行にあたり
十分に意識しなければいけない倫理について解説します。
技術者倫理(工学倫理)とは?
「工学倫理」はもともとアメリカから入ってきた概念です。
「工学倫理」は「エンジニアリングエシックス」の日本語訳で、
エンジニアリングを「工学」、
エシックスを「倫理」と訳したことが語源です。
エンジニアリングの日本語訳として「技術者」を当てることもあり、
「技術者倫理」と呼ぶこともあります。
両者に大きな違いはなく、ここでは同じ概念として解説します。
技術者倫理教育はいつから?
技術者の教養として技術者倫理を重要視し始めたのは、
それほど古いことではなく、かなり最近の話です。
それまでは、技術者は専門家倒して新しい技術を導入する際に社会への影響だったり、
その技術がもたらす副作用だったりには
無頓着に技術開発を実行してきました。
技術者の倫理観の欠乏から、
技術者由来の欠陥製品がもたらす社会問題が多発して、
なんとかしなければならないということで、
技術者の卵への教育活動が始まったという経緯です。
「技術者倫理」が教育現場で講義がスタートしたのは、
アメリカの理工学系大学で、
1970年代と言われています。
わが国ではそれから30年後、
JABEE(日本技術者教育認定機構)の指導の下で
「技術者倫理」の教育が実施されています。
JABEEは非政府団体として1999(平成11)年11月に設立し、
機械学会・電気学会・土木学会などの技術系学会と連携を取りながら
日本における「技術者倫理」の教育を大学や高専で実施しております。
技術者倫理教育がはじまった時代背景
第2次世界大戦後、製造業における技術革新が進み、
大量生産・大量消費の時代が到来しました。
技術者倫理が意識されずに技術革新がどんどん進み
工業製品がちまたに行き渡ると、
良品ばかりが造られるわけではなく、中には欠陥品も作られます。
多量生産できる能力があるということは、社会に害をもたらす欠陥品も
無自覚のうちに大量に消費されることになりました。
そして製品欠陥の及ぼす影響が広範囲に広がり
それが消費者運動をひこおこし、
60年代後半に政治問題化します。
そして、アメリカ大統領のケネディによって「消費者の4つの権利」宣言がなされました。
技術者発端の欠陥商品による悪影響を解決するにはどうしたらいいか?
技術者を教育する機関(大学など)が問題視し始め
1970年に教育機関における「技術者倫理の教育プログラム」が設置されることになりました。
そこから30年遅れで日本にもその流れが伝わり、
現在のJABEEの技術者認定プログタムに至っています。
技術者倫理を定義する
「技術者倫理とは、どんなことでしょうか?」
一般的「倫理とは、どこが違うのでしょうか?」と聞かれた場合に、
これを簡潔に答えることはなかなか困難です。
専門家という階層の、さらに技術者として
社会とどう向き合うか?
社会との接点である対人関係から考えていきましょう。
倫理は対人関係の規範であり、技術者の対人関係は、
1 技術者 対 技術者
2 技術者 対 業務上の相手
3 技術者 対 公衆(一般市民)
という三つのグループに大別できます。
「技術者倫理」の特徴は、このような公衆との人間関係にあります。
なお、公衆とは一般市民のことで、
技術者の業務により、
その結果についての十分に知らされることなく、
同意もない状態で何らの影響を受ける人々のことです。
「技術者倫理」を平易に分り易く表現すると
「技術者がモノやサービスを介して、
消費者や一般市民に喜んでもらえる状況をつくり出す間接的な人間関係」です。
しかし、単に倫理となると
「人が他人に対して喜んでもらえる状況をつくり出す直接的な人間関係」ということになります。
ここが大きな違いと言えます。