技術職を目指す大学生が学ばなければならない 技術者倫理 その3
科学だけでは解決できない問題を考える
科学技術の発展と複雑化に伴い、科学のことは技術者の言うことを聞いていればなんでも解決するとは限らない時代になってきました。
科学だけでは解決できない問題があるのです。
東日本大震災の影響による福島第一原子力発電所事故を例にこの問題を例に考えます。
事故から9年が経ち、一見平常な生活が戻りつつありますが、原発事故は終わっていない、諸々の疑問が解決していません。
例えば、「原子力発電所の安全性への疑問」、「環境中放射能の長期的影響への疑問」、「原子力発電のコストへの問題」などです。
世の中には純粋に科学だけで解決できる問題と、一見科学的だが科学だけでは解決できない問題があり、今日ではむしろ後者の問題が多くなっているようです。
アメリカのA.ワインバーグ博士が「トランスサイエンス(科学を超える)問題」と名付けた問題です。
「専門家の話は聞くが、必ずしも専門家に任せられない」
技術者は原発の安全装置が全て同時に故障すれば深刻な事態になることは知っている。
しかし、その事態が起こるかどうか?さらに安全装置を追加すべきかどうか?コストを含め正解を出すことはできません。
技術者からすると「科学ではわからない、社会が決めるべき問題だ」となります。
公衆からは「専門家の話は聞くが、必ずしも専門家には任せられない」と言われています。
トランスサイエンス問題における技術者の役割
このトランスサイエンス問題に対して技術者は「わからないことは、正直にわからないと言うこと」が重要です。
そして、わかりにくい技術の内容をとことん平易に解説して、情報の非対称性を解消して、よく知らされた上での同意形成を得ることが技術者の重要な役割になります。
これが「説明責任」が技術者倫理の大きな柱となってきた理由です。
次回は具体的事例を解説しながら、技術者は技術者倫理を踏まえてどう行動すべきか考えていきます。