技術職を目指す大学生が学ばなければならない 技術者倫理 その2
倫理には階層がある
倫理の特徴として、倫理は立場ごとに階層を形成しています。
技術者は人間であり、社会人であり、組織人であり、ある分野の専門家でもあります。
それぞれの立場で考えなければならない行動規範(=倫理)があり、それらは階層を形成しています。
下から順番に、人間・地球人としての立場における「生活倫理」、社会人としての立場における「社会人倫理」、組織人・企業人としての立場における「企業倫理」、専門家としての立場における「技術者倫理」、それぞれの立場における倫理があります。
立場の違いによるジレンマ
そして、場合によっては立場の違いからジレンマ(板挟み)に陥るケースがあります。
Aの立場では「善」だがBの立場では「悪」となる。
どちらの立場を取るべきか悩むところです。
冒頭に述べたように技術者が関与する企業不祥事が頻発しており喫緊の課題となっています。
これらの不祥事は企業倫理と技術者倫理のジレンマが発生原因となっています。
倫理階層の対立であるジレンマが生じた時、技術者はどう対処していけばよいか事例を交えて考えていきます。
技術者が技術倫理を身につけなければならない理由
科学を専門とする技術者は科学技術を行使することで、その結果は良くも悪くも公衆に多大な影響を与える存在です。
技術者が技術者倫理を身につけなければならない理由を市場原理で考えてみます。
情報の非対称性問題
専門家である技術者はその専門分野において公衆より多くの知識と情報をもっています。
これは「情報の非対称性」と言われるもので、経営学では、この状態下では公平な競争はなくなり、情報をたくさん持つものが優位となる現象です。
専門家の不正はなかなか見抜けない
そうなると、公衆にとって専門家の不正はなかなか見抜けなくなります。
それだけに、技術者は技術者倫理をしっかり身につけ、自らを律することが極めて基本的かつ重要な素養になります。
例えば、技術者が技術者倫理に反する行動をした場合は、不祥事となり公衆への多大な悪影響を及ぼします。
すると専門家全体の信頼が落ちることになり、技術者の活躍する市場がなくなり、科学技術そのものの信用に関わる問題になります。
情報の非対称性を解消するためには
情報の非対称性をなくし、専門家と公衆が公平な取引をするためには、技術者のブランドを高めることが有効です。
そこで登場するのが、医師や、技術士、建築士と言った国家(品質を保証する第三者機関)が公認する資格です。
資格を持つ専門家は「法」でその立場が守られていて権限が与えられ、その資格者でなければ行ってはいけない行為があります。
公衆は技術者の外見や料金の高さではなく、第三者機関が認める資格の有無によって技術者の信頼性を判断できます。
資格所有者は国家公認のブランドが与えられるとともに、技術者としての判断や行為に対してその成果に対する品質を保証する責任が生じます。
ここでもやはり資格者がブランドを保つためには、厳しく自らを律する「技術者倫理」が必要になってきます。
今回はここまでです。次回は「科学だけでは解決できない問題」について解説します。