技術者倫理の基礎知識 4 〜技術者が最上級の倫理観を身に付けなければならない理由〜
前回の記事で、①「倫理には階層がある」=立場ごとに倫理観は異なる、
②「技術者倫理は専門職として最も高い倫理観が求められる」
このふたつについて解説しました。
今回は、その理由について解説します。
「技術者」と「公衆」の関係性
技術者の倫理はその対人関係に大きな特徴がある。
不特定多数の「公衆」との間接的な関係、
その関係の媒体として技術者が作り出した「もの」や「サービス」が介在する。
このことが、技術者に最上の倫理観を要求する理由です。
例として、技術士(国家資格)に求められる「技術士倫理」を
公益社団法人日本技術士会が「技術士倫理綱領」として制定しています。
前文と第1にそのことが具体的に定められています。
技術者が職業上向き合う「公衆」についてもう少し具体的に解説します。
「公衆」とは、次のような特色を持った不特定多数と定義できます。
技術者が考え出した「もの」や「サービス」によって何らかの影響を受ける不特定多数であり、
- 消費者や一般市民
- 製品・サービスが及ぼす結果について十分知らされることなく
- 同意のない状態で何らかの影響を受ける人々
が公衆です。
技術者も人間です。人間は過ちを犯します。
万一、技術者が間違ったものや、不良品を世に出したときに、
多大な悪影響を広く世間に及ぼすことがわかったでしょうか。
だから、技術者には最上級の倫理観が求められるのです。
技術者倫理を身に付けなければならない理由
専門職(プロフェッショナル)の技術者が技術者倫理を
身に付けなければならない理由についてご理解できたでしょうか。
図にすると次のようになります。
技術者が関与した不祥事例
ここ20年の間でも
技術者が関与した不祥事がたくさん散見できます。例えば
雪印乳業の集団食中毒事件(2000年)、
A建築士による耐震強度偽証事件(2005年)、
耐震ゴム偽装事件(2015年)、
マンション杭打ちデータ偽装事件(2015年)、
日産自動車完成検査不正事件(2019年)、
トヨタ自動車の不正車検事件(2021年)など、
不祥事の後、その都度、法令改正や再発防止策が整えられてきましたが、
一向に減少する気配がありません。
どうしたら改善するか?
それは地道な技術者倫理教育しかないと考えます。
技術者を目指す若者たちの意識を変えることから
技術者の関与する不祥事の減少を目指したいと考えています。
次回では、これから社会に巣立ち、技術者となることを目指す大学生に向けて、
「なぜ大学で技術者倫理を学ばなければならないか?」
について一緒に考えてみましょう。