事業再構築補助金の公募要領を読む (1)

第3回目の公募が始まりました

今年度のコロナ関連補助金の目玉である「事業再構築補助金」の第3回公募が7月下旬に始まりました。

総額1兆円を超える、これまでにない超大型補助金です。

今回を含め残り3回の公募が予定されていますが、早く準備するに越したことはありません。

なぜか? コロナ禍も先が見え始め、「IT業界」「巣ごもり需要」などが景気を牽引して徐々に業績が回復傾向にあり(2020年度税収は過去最高)、

今後ワクチン接種率の向上が進むと、それ以外の業種の売上も回復することが予想されます。

この補助金は申請にあたって売上高減少要件があり、売上がコロナ前に回復すると申請できません。

コロナ後の定義は、第1回は「申請前6ヶ月」、第2回は「2020.10から申請まで(8ヶ月間)」、第3回では「2020.04から申請まで(17ヶ月間)」と段々長期間になってきています。選択の幅は大きくなるので一見有利に見えます。

しかし、業種によっては売上回復期に入った業種も増えてきています。申請が遅くなり直近の売り上げがコロナ前に回復すると、売上高減少要件から外れ、申請できなくなる可能性が高くなるからです。

補助金申請で一番大事なこと 公募要領を読み込むこと

他の補助金もそうですが、補助金にはルールがあり、そのルールの中で戦う点では、スポーツと一緒です。

申請者という「競技者」がいて、審査員という「審判」がルールに従って採点する、まさにスポーツです。

そのルールブックが「公募要領」です。そこには、どうすれば採択されるか、全て書いてあります。

だから、最初にやることは公募要領を理解して、どういう戦略で戦うか決めることです。

今回は、公募要領に沿って、重要な点を解説してゆきます。

第2回公募からの変更点

【1 最低賃金枠の創設】

一番大きい変更点は、中小企業者を優遇していた「緊急事態宣言特別枠」に申請できなかった業種むけに、ほぼ同等の条件で「最低賃金枠」を創設したことです。

「緊急事態宣言特別枠」は宣言により多大な影響を受けた「飲食業」「宿泊業」が対象でしたが、それ以外の業種には無縁でした。

そこで、彼らを救うべく、業種関係なく最低賃金引き上げの影響を受けて業況が厳しい中小企業者に対する枠を設けたということです。

具体的には、【宣言による売上高減少要件】に代わって、「最低賃金に近い賃金で雇っている従業員数が10%以上いること」【最低賃金要件】を満足すれば良いわけです。

【2 通常枠の補助上限額見直し】

前回までの通常枠は従業員数に関係なく中小企業者の補助上限は6,000万円でしたが、今回は、従業員数によって上限額が変わり、最大8,000万円に引き上げられました。

政府は従業員の賃上げを強く求めていると解釈できます

【3 その他の運用見直し】

3点あります。

(1)コロナ後の期間定義を緩和:冒頭に述べたように最初の緊急事態宣言から申請までの期間をコロナ後と定義しています。どちらにしても、業績の回復は近い将来に訪れると予想して、要件に合う中小企業者は完全回復前に申請をしましょう。

(2)売上高等減少要件については売上高に代えて付加価値額でも良いことになりました。これにより、以前は設備投資をガンガンやっていた、従業員給与もそれなりに払っていたが、コロナ後は設備投資を延期した、従業員に休業を要請したなどの条件があれば、売上高より明確に業績悪化を証明できます。

(3)事業再構築要件における新規性要件が緩和された。以前は「過去に製造した実績がない」でしたが、今回は「コロナ以前に製造した実績がない」となりました。例えば、コロナ後、とりあえず今ある設備でテイクアウト事業を始めた。事業再構築では本格的に設備投資してテイクアウト事業を始める。といった場合が相当します。

【事業概要】(2ページ)

それでは、第3回公募要領を順に解説していきます。

まず、2ページ【事業概要】です。この補助制度の概要を説明しています。

最初は、制度の目的です。とても重要なところです。

社会を良い方向に変革するために税金を使う。そのための施策が補助金事業です。

補助金事業は審査があり、補助金事業の目的を外すとスタートラインにも立てません。

事業再構築補助金の目的はふたつ。

①コロナ禍による経済社会の変化に対応すため、リスクをとって果敢に挑戦する事業者を応援する

②中小企業の思い切った「事業再構築」を支援することで日本経済の構造転換を促する

そして、補助対象要件です。この要件に当てはまらないと補助を受けれません。

要約すると3つの要件になります。

①コロナ禍で売上が10%以上減少している事業者である

②事業を再構築することで復活する

③認定経営革新機関(商工会・商工会議所、金融機関など)と共同で3から5年の事業計画書を策定する

1.事業の目的 2.補助対象者(7ページ)

「1章 事業の目的」は【事業概要】で説明した通りです。

「2章 補助対象者」 では対象条件が記載されていますので確認しておいてください。

3.補助事業の類型及び補助率等 (9ページ)

事業再構築補助金には、6種類の申請枠がありますが、大多数の中小企業事業者は「通常枠」か「緊急事態宣言枠」か新しく創設された「最低賃金枠」になります。

「緊急事態宣言枠」と「最低賃金枠」は補助額上限が低いが、補助率がよく、コロナ禍で業績が著しく悪化した事業者をスピード感持って救済する目的から

優先採択されるということなので、売上高等減少要件に当てはまる小企業者にとってはおすすめの枠です。実際、1回目の採択では、採択率で通常枠が30%台に対して「緊急事態宣言枠」は50%台の結果となりました。

ここでは対象者の最も多い「通常枠」を中心に解説します。

まず、補助金額。100万円から8,000万円の広い幅があります。上限は従業員数によって3つのランクに分かれています、

類似の補助金制度の、持続化補助金が50万円、ものづくり補助金が1000万円なので、

小事業者から中事業者、中堅事業者まで、まんべんなく対象にしていいというスタンスです。

ただ、第1回目の申請結果を見ると、申請額が1,000万円以下が全体の33%、6,000万円の上限狙いが19%と

2極化の傾向があります。

1,000万円以下で申請した事業者さんは、ものづくり補助金からこちらの補助金に流れてきたと見ることができます。

しかし、こちらの補助金の方が申請要件が厳しいので、

1,000万円以下の場合は、どちらで申請するかよく考えたほうがいいでしょう。

続いて、補助事業実施期間です。補助金はこの期間に使い切って検収までが必要になります。

通常枠では交付決定から12ヶ月以内です。

この補助金は、他と違って建物費も経費計上して良いのですが、

建物の場合、交付決定後に設計や相見積もりを始めたのでは絶対に完了できない期間です。

申請時に発注を見据えた設計と相見積もりを済ましておくことを勧めます。

4.(1)補助対象の要件【事業再構築要件】(14ページ)

先に説明した申請枠ごとに要件があります。

通常枠で説明すると先に示した3つの要件を満足すればいいことになります。

まず【事業再構築要件】について詳しく解説しています。

「事業再構築」は中小企業庁が「事業性構築指針」で定義しており、その定義に当てはまること。

5つの類型が定義されています。そのどれかに当てはまる必要があります。

ここで重要なことは、自分は何「業種」でどんな「事業」を営んでいるかを知ることです。

「業種」「事業」は総務省の日本標準産業分類で定義されています。

例えば、「業種」は農業や製造業、建設業などの大分類になります。

「事業」は「業種」をもう少し細かく分類して中分類、小分類、細分類に分かれます。

例えば大分類「建設業」、中分類「総合建設業」、小分類・細分類「建築工事業」と言った具合です。

申請数の多い4つの類型について説明します。

原則は、新しい製品・サービスを提供することを前提に転換することです。

①業種転換 業種(大分類)を転換する。例えば、建設業から農業へ。

②事業転換 業種(大分類)は変えず事業(中、小、細分類)を変える。 例えば、飲食業のまま日本料理から焼肉店へ。

③新分野転換 事業、業種を変えずに、新商品・サービスを新市場へ提供する。

それぞれの類型で必要な追加要件があります。

3つの類型の共通点は製品等の新規性と市場の新規性です。

売上要件は類型ごとに異なり、

業種、事業転換は【売上高構成比要件】新しい製品等の属する事業・業種の売上が最も高くなること、

複数事業を経営している場合、その中で一番売り上げる業種・事業になることです。

既存事業が1つの場合、新事業を現在の売上と同等以上の規模へ5年間で育てなければならないので、ハードルはかなり高いと言えます。

新分野転換の場合、【売上高10%要件】ターゲットが製品等なので、その製品売上が全体の10%を占めるようになること。

こちらの方が、要件ハードルは低い感じです。

もう一つの毛色の違う類型として、

④業態転換 市場と製品・サービスは既存でいいが、性能や効能を上げるために製造方法等を相当程度変更する。

ここで必要な要件は、「製造方法等の新規性要件」「製品の新規性要件」「売上高10%要件」になります。

4.(2)補助対象の要件【売上減少要件】(15ページ)

2つ目は、【売上減少要件】。コロナ前から申請直近の売上が10%以上下がっていること。

ただし、要件が複雑になり、コロナ後として比べる期間を、初期(2020.4から2020.9)と直前期(2020.10から申請時)に分け、比較対象月の3ヶ月を直前期から選ぶ場合は10%減要件だけで良いのですが、対象月を一月でも初期から選ぶ場合は、10%減要件に加えて、直前期の3ヶ月合計が5%減になっている要件が加えられます。

つまり、直前期は業績が徐々に上がってきて、コロナ前に戻りつつある企業は排除されるということです。

そして、新しい緩和策として、売上高に代わり付加価値額で比較しても良いことになりました。この場合、10%減を15%減、5%減を7.5%減と読み換えます。

コロナ前は定期的に設備投資を行っていたような企業が、コロナ後新規設備投資を凍結したような場合、適用可能です。

4.(3)補助対象の要件【認定支援機関要件】(16ページ)

3つ目は、【認定支援機関要件】。認定経営革新機関と一緒に計画策定すること。他の補助金はこのことを必要条件としていませんので注意してください。

一般的には、商工会・商工会議所や金融機関がそれに当たります、早い段階で相談して協力体制を築いてください。

補助額が3,000万円を超える事業の場合、金融機関の関与も必要となります。その場合「金融機関による確認書」が必要になります。

4.(4)補助対象の要件【付加価値要件】(16ページ)

4つ目は、【付加価値額要件】です。これはものづくり補助金とほぼ同じです。

付加価値額の増加が年平均3%以上となる事業計画を立ててください。審査者の印象がよくなります。

これは、3%ギリギリよりはできるだけ多くが望まれます。

しかし、採択されると事業完了後5年間の事業の成果を報告する義務があります。

未達の場合のペナルティは明記されていませんが、実現可能性を信じてもらえるような根拠の設定が必須です。

なぜこの売上が可能かのか?この利益率の根拠は?など

内部・外部分析からの根拠を示しながら数値を積み上げることが大切です。

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