現場で使える建設業界用語_1 建築物の耐震指標 Is値について

Is値って何?

Is値とは建物の耐震指標のこと。英語表記では「Seismic Index Structure」と表記します。

新築の建物にはあまり使いません。どちらかというと既設建物物の耐震性を評価するためにある数値です。

建築物の耐震性能

建築物の安全性を確保するための法律を建築基準法と言います。耐震性能もこの法律で決められています。

この法律は建築物に求められる最低限の性能を規定する目的で整備されています。したがって、この法律に準拠した建築物は最低限の安全性が確保されているはずです。

しかし、あくまでも法律を作った当時の最低限の安全基準で、世の中の変化にあわせて最新の考え方や研究を反映して更新されます。

例えば、耐震性能で言えば、大地震で建物が多数崩壊したりすると、被害調査を踏まえて基準が強化されることを繰り返してきました。

宮城県沖地震が大きな転機になった

この地震以前、「震度5程度の地震に対して(重力の0.2倍相当の地震力が作用した時に)崩壊せず元の形に戻る」ことが最低限の性能でした。

ところが、宮城沖地震(最大震度6弱)で多くの建物が崩壊してしましました。これを契機に耐震性能の考え方が大きく変わりました。

以前の基準を「旧耐震基準」、それ以後を「新耐震基準」と呼んで区別しています。

新耐震基準では、大地震(震度6以上)に対しての規定を追記しました。滅多に来ない大地震に対しては「部分的に損傷しても全体崩壊しない」を目標にしました。

大地震においても中小地震と同じ性能(元の形に戻る)を確保するには、たくさんの建設費用がかかるため、大地震に対しては建築物に多少の損傷は許しても人身の被害は許さないことにしました。

つまり、旧耐震基準で建てられた建築物は大地震時には崩壊する可能性があるということです。もちろん施主の意向で建築基準法より安全性を重視して設計された建築物もたくさんありますが、コスト重視の建物は大地震時に崩壊の可能性が高いということになります。

旧耐震基準で建てられた建築物は危険か?

新耐震で設計されるようになったのは1981年(昭和56年)以降です。それ以前の建築物は崩壊のリスクを抱えたままなのです。

法の不遡及性と言って、法令の効力はその法の施行時以前には遡って適用されないという法の一般原則があるため、旧耐震基準の建築物は法令違反にならなくて、リスクを抱えたまま存続が許されています。

しかし、重要性の高い建物は政策的に耐震改修がなされています。主に災害時の避難場所となる学校とか病院とか公共建築が優先的に改修されてきました。

民間のマンションや住宅については、お金がかかることでもあり耐震診断の強制はされていないのが現実です。

この前の東日本大震災に無傷で耐えた建物はある程度の信頼がおけますが、絶対ではありませんし、数値で安全性が確認できたわけではありません。リスクを抱えたまま住み続ける覚悟が必要です。

そこでIs値の出番です

中古建築物の買い手や利用者からすると、過去に建てられたこの建物は安全かと言われても答えられません。そこで役に立つのが建物の耐震指標の「Is値」です。

ようやくIs値が出てきます。

旧耐震基準で建てられた建築物を耐震診断したときの耐震性評価値がIs値です。

新耐震基準同等を1.0とします。1.0以下をランク付けします。

Is値の評価のしかた

0.6以上あれば大地震においても建物崩壊の危険性は低いと評価できます。

基準改正のきっかけとなった宮城県沖地震の建物被害の調査結果ではIs=0.6以上の建物に中程度破壊の被害はないという研究報告があります。(「耐震診断・耐震補強の現状と今後の課題」中埜良昭(日本建築学会2000.1.14))

では、どういう建物が危険か?

Is値は3つのパラメーターに左右されます。

  • 建物の持つ強度と粘り強さ
  • バランスの良い形状か?
  • 経年年数(劣化の度合いが激しいか)

強度と粘り強さを持ち、安定した形状で築年数が浅いと良い数値になります。

粘り強いとは?

粘土のように形を変えても切れたり千切れたりしない性質。逆はガラスのように硬いが大きく曲げると割れる性質。

建築素材で言うと、鉄は粘り強いが、コンクリートは粘らない。

だから、鉄筋コンクリートのように鉄筋とコンクリートを組み合わせた素材が使われるのです。鉄筋を多用すれば粘り強くなる。

バランスが悪い形状とは?

形状で言うと三角形は安定しています。

高いより低い。細長いより平べったいが安定しています。

細長く高いペンシル型ビルなどは無理な形状をしています。

そして、重心が偏っている。縦方向にも横方向にも重さ(荷物や設備の量)の配置が悪いのは良くない。

剛芯が偏っている。縦方向にも横方向にもブレースや耐震壁の配置が偏っているのは良くない。

中古マンションを買うなら

旧耐震基準時代のマンションは築40年くらいになります。これからこの年代の住宅の供給量が増えていきます。中には、駅に近かったりいい立地のマンションもたくさんあります。

しかし、現状で耐震診断を受けているマンションはほとんどないと思ってください。

築40年未満で中層(4階以下)壁式構造、できればプレキャスト工法(工場で作った鉄筋コンクリート壁を現地で組み立てる)のマンションならリスクは少ないと考えられます。

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