使ってみてよかったもの(3)今年の夏は空調服がクール
労働現場における熱中症が急増中!
近年、労働現場における熱中症死傷者が増えています。(上のグラフ:厚生労働省統計より)
H30年度の死傷者は前年度比で倍増しています。(554人→1,178人)
熱中症を原因とする職場の死傷者の割合は全体の1%程度ですが、
近年人手不足の影響から、労働者も会社側も職場環境改善に努め、労働災害に対する意識改革が急速に進んでおり、労働災害は年々減少傾向にあります。
そんな中、熱中症による労働災害は増加傾向にあります。
地球温暖化の影響による酷暑が原因と思われますが、なんらかの抜本対策が必要です。
建設業が熱中症死傷者トップ
さらに分析すると、業種間に差があり、建設業がトップです。
建設現場は屋外露天のケースが多く、夏季の作業環境は劣悪なのでしょう。
そんな中、熱中症対策として建設業では空調服の採用が進んでいるようです。
建設業にとって業界挙げての課題が「安全確保」と「担い手の確保」です。
厚労省労働基準局長から出された「職場に行ける熱中症予防について」と言う通達のなかで
「・・・身体を冷却する服の着用も望ましい・・」と言う表現で空調服が具体的に推奨されています。
実際に、大手建設会社の大和ハウス工業さんも会社を上げて空調服の採用を進めているようです。
そもそも空調服って?
空調服とは、「株式会社空調服」が開発して「空調服」として商標登録している「ファン付き上着」のことです。
この会社はソニーを退職した技術者が20年ほど前に立ち上げたベンチャー企業です。
技術者らしく、水が水蒸気に変態する時にエネルギーを奪う気化現象に目をつけ、
少ないエネルギーで体を冷やす仕組みを開発しました。
「上着」と「空気を送り込むファン」だけの構造で、作業服と体の間に気流を作り、
気流によって汗が乾き水蒸気に変わる時に皮膚から熱を奪う仕組みです。
「庭の打ち水」や「浴衣に団扇」と同じ原理です。
経営コンサルタントの視点で空調服を考える
今までにない発想から生み出されたアイディア商品は、構造が簡単なだけに類似品もたくさん出て来ます。
空調服の場合、創業者がソニーで技術開発をしていた経験から、知的財産保護は万全なようで、
製造委託先から類似性の問題で訴えられましたが、昨年全面却下されたと報道されています。
アイディアが主体のベンチャー企業が、企画から設計・調達・製造・販売まで
全ての流れを自前でやることは困難であり、資金調達リスクを伴います。
当然ながら、スマイルカーブで言うところの、利益率が高い上流の企画・設計と下流の販売は自前で、
中流の製造は外部委託するのが正しい経営判断です。
いわゆる、アップルのようなファブレス企業です。
その場合、リスクとなるのが、今回の例のような類似品・パクリ問題です。
創業間もないアイディア主体の企業が生き残るには、知的財産をまもる戦略が非常に重要と言うことです。
技術コンサルタントの視点で空調服を考える(熱中症と体のメカニズム)
そもそも熱中症とは?
体温が上がり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かくなったりして、体温の上昇やめまい、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こす病気のことです。
本来、人間は、暑さを感ずると汗が出てその気化熱で体温を下げる自動調節機能を持っていて、平熱を保つ恒温動物です。
暑くて汗が出るが、気化されず体が冷えないと、汗が出るのに体温は下がらず、脱水症状を起こして脳が機能しなくなり、体温はどんどん上がってしまいます。
ノートパソコンを暑いところで長時間使いCPUの冷却が追いつかないとシステムダウンするように、人間のCPUである脳は働かなくなります。
人間は風邪で体温が数度上がって38度なんかになると、途端に動けなくなり、寝込んでしまいます。
人間の感覚って不思議なもので、体温36度の人が、気温30度の部屋は暑くて、水温30度のお風呂はぬるすぎると感ずる。なぜでしょう?
これは肌が接する雰囲気(空気か水か)の熱伝導率の差が関係しています。
空気は代表的な断熱材で熱伝導率はとても小さい材料です。真空魔法瓶や二重サッシの原理です。
一方、水は空気に比べ熱伝導率が大きく、体温より低い温度の水中では体温を下げてしまいます。
だから、雰囲気の温度ではなく、体温で考えなければなりません。
熱中症になるかどうか(=快適空間かどうか)は、①気温と②湿度と③気流と④外部からの輻射熱と⑤活動量と⑥着衣の量の6要素で決まります。
②の湿度は汗の気化に関係しています。気化熱は水分が蒸発することで生まれます。
湿度が高いとは、空気中の蒸発水分量が多いことを示し、高いと空気中に水蒸気を取り込む余裕がない状態です。
だから、湿度が高いといくら汗をかいても蒸発しないので体温を上げてしまします。
③の気流も汗の気化に関係していて、高原のそよ風をイメージすればわかるかと思います。
④の外からの輻射熱はストーブにあたると暖かい、陽がさすと暑くなると言うことです。
⑤の活動量は、激しい運動をすると筋肉がエネルギーを放出する現象です。
⑥の着衣量は夏は薄着、冬は厚着になることですね。
「体内にたまる熱量」=「運動で放出される熱」+「外からの輻射熱」ー「汗の気化熱」ー「対流による熱授受」です。
これがプラスだと体温が上がります。
だから、熱中症で危ないなと思ったら、
「風通しの良い涼しいところで安静にしましょう」が最善の対処です。
空調服はこの6つの要素で言うと、④外からの輻射熱を防ぎ、③汗の気化熱を作り出すから有効なのです。
電池駆動のファンで肌の周辺に効率的に気流を作りだし、少ないエネルギーで汗の気化熱を作り出す優れものです。
使った人の話では、輻射熱がないところへ行くと寒いくらいに感ずるそうです。
空調服は汗臭も防ぐ??
空調服の二次的効果として空調服を着ているといくら汗をかいても、汗臭が薄まるそうです。
なぜか?汗臭の原因は肌に住み着く常在菌が原因だからだそうです。
空調服を着ていると、気流によりすぐに汗が乾くため、水分を好む常在菌の繁殖が抑えられて汗臭が薄まる言うことだそうです。
将来、体臭予防アイテムとして流行ったりして。
夏季に空調服が効果的な職場はどこだ?
まずは、屋外作業する職場、
- 建設現場
- 交通整理員
- ガードマン
- 電力や水道メーターの検針業務
次に屋内空間が大きすぎて空調が非効率な職場
- 倉庫内で働く人
- 公立学校の室内競技の部活(職場じゃないけど)
次は室内の溶鉱炉周りで働く人
- 鐵工所
- 溶接作業
- ガラス工房
私のお客様でガラス工房を運営している方がいますが、工房は室内に溶鉱炉がいくつもあり、天井が高いためとても空調できません。
夏季は、水分・塩分の補給と定期的な休息が精一杯の対処で、窓全開にしても夕方は西日が入り、7月から9月は過酷な職場になっています。
こう言った職場はスポットクーラーなんかよりは、動きやすくて、省エネ性の高い「空調服」がぴったりです。
熱中症予防だけでなく、作業効率の工場も期待できます。
今年は試験的に導入を進めて、その効果を試してみたいと思っています。