中小企業経営者が知っておきたい経営用語 2 損益分岐点分析
この注文、請けてもいいかどうかを考える
日々の営業活動の中で、「この注文請けてもいいかどうか?」
悩むことはありませんか?
その判断は、現在の生産能力の状況によって変わってきます。
なぜ請けるのか?断るか?
「カン」だけで判断していませんか?
これからの経営者は数字を元に経営判断することが求められます。
例えば、金型を使って、プラスチック製品を樹脂射出整形する会社において、
ある注文、数が多ければ利益が出るが、少ないと赤字になる。
その境界は何個か?
こういた問題で、役に立つのが損益分岐点分析です。
損益分岐点分析とは?
その製品を作るために必要な費用は
その性質から2つに分類することができます。
一つは「固定費」と呼ばれる費用
売上が上がっても上がらなくても必要になる費用のこと。
例えば、家賃や、設備の減価償却費、従業員の給料などが該当します。
もう一つは、「変動費」と呼ばれる費用のこと。
これは、売上に比例してかかる費用のこと。
例えば、材料費や外注費、梱包費などです。
固定費を負担しなければならないため、
ある程度の売り上げがないと
売上より費用が大きくて損失がでます。
売上と費用の差がゼロになる点を損益分岐点と呼びます。
固定費の小さいビジネスモデルであれば
損益分岐点は低く
例えば、卸売問屋など利鞘で稼ぐ商売です。
一方、固定費の大きいビジネスモデルは
損益分岐点が高くなります。
携帯電話のキャリヤーや電力会社など
大きな設備を使って商売するところが該当します。
分析の事例
ある注文があります。
【条件:A製品】は
•注文頻度 1回/月
•売値は100円/個
•機械の生産性=100個/時間
•オペレーター1人で操作する
•オペレーター労務費は3,000円/時間
・作業の始めと終りは品質が安定せずに50個分のロスが出る
A製品を230個という注文が入りました。
さて、この注文請けるべきかどうか?考えてみましょう。
まず、条件の整理です。
【1個当たり変動費】
•材料費 20円
•電気代 20円
•労務費 20円
合計60円
【固定費】
•ロス費用 60円✖️50個=3,000円
•段取り替え労務費(1時間) 3,000円
•金型保管量(1ヶ月分) 4,000円
合計 10,000円
この場合、変動費率は0.6、
固定費は4,000円となり、
式で表すと
y=0.6x+10,000 となります。
グラフで表すと次のようになります。
損益分岐点売上は
x=10,000/(1ー0.6)=25,000円 となります。
個数換算すると250個になります。
したがって、230個の注文では赤字になります。
注文を断るか、値上げ交渉することになります。
値上げ交渉するなら、いくらにするか?
売値を110円にしてもらいましょう。
この場合、変動費が変わらず、売値が上がるので
変動比率を下げる効果があります。
具体的には「変動比率=60円/110円=0.55」
0.60から0.55に下がりました。
費用曲線(直線)の勾配が緩くなるので
売上曲線(直線)との交点(損益分岐点)は下がります。
この場合、損益分岐点売上は22,222円になり、個数換算は202個(=22,222/110)となります。
230個の注文なら
売上=25,300円
費用=0,55✖️25,300+10,000=23,915円
利益=25,300ー23,915=1,385円
5%程度の利益率ですが黒字になります。
売値を110円にしてくれるなら請けてOKです。
いつでもこの判断が正しいか?
いつもこの判断でいいかというと、そうではありません。
生産ラインが満杯で、請けたら時間外の生産になったり
外注しなければ生産できないといった場合は
別な判断になります。
時間外賃金や外注費と比較して考えなければなりません。
また、生産ラインが空いており従業員が遊んでいる状態なら
固定費を稼ぐために、単品で赤字でも積極的に請ける判断もあり得ます。
どちらにしても、数字で経営判断することが大切です。